パザパ

パザパ pas a pas ・・・フランス語で一歩一歩。頑張らずでも一歩一歩前に進める日々を願って・・・

そうだ、直島に行こう その3

台風に翻弄された三連休が終わり、急に空が高くなった。最低気温が一気に20度以下に。あの熱帯夜からやっと解放されたのは嬉しいけれど、急激な降下に体がこころがついていけず戸惑うばかり。このまま秋へと切り替えても良いですか?と疑心暗鬼で空に問う。今年も読書の秋のみになるのだろうか。相変わらずのマスク生活が悩ましい限り。
さて、気を取り直して「地中美術館」にこころを戻してみよう。

直島に於ける安藤忠雄氏の代表的建築「地中美術館」は名前の通り建物の大半が地中にある。瀬戸内の景色、自然を損なうことがないよう、敢えて外観のない建築を設計したという。上空から見ると丘の上に各展示室の天井に設けられた天窓が見えるだけ。つまり各展示室の採光はこの天窓から差し込む自然光のみ。「各スペースが光によって性格づけられるようにした」安藤氏の意匠がそこにある。(写真は「地中美術館」HPより)

エントランスや館外の通路部分のみ撮影が許されている。エントランスを抜けて暗い通路を進むと自然光が優しく迎えてくれる。光と影の中をぐるぐると回っているような階段を登っていく。迷宮のような通路、そして階段。差し込んでくる瀬戸内の陽光。この先に何が?すっかり安藤建築が目指した「地中の光」に惹き込まれていく。
地中美術館の中心的な展示作品は皆さんご存知のクロード・モネの大作「睡蓮」モネが70歳を過ぎてから描き始め、亡くなる86歳まで描き続けた作品の一部だという。そしてこの「睡蓮」を今の視点から解釈するために、現代作家の二人が選ばれたという。

それがウォルター・デ・マリアとジェームズ・タレル。私が特に深くこころをとらわれたのはマリアの展示でした。入場制限がされていて暗い通路で少し待たされた後、いきなり現れたこの世界に一歩足を踏み入れた途端、まさに言葉を失った。花崗岩の球体の上には長方形の天窓があり、そこから差し込む光が球体の中心に輝き、青空が部屋の中心にあった。金箔張りの木彫は一つとして同じ組み合わせはないという。階段を一段登るごとに見える世界が変化する。球体の中に映る世界、私の姿をも含めて刻々と変化する。しかし天窓の光はその全てを包括してそこにあり続ける。ここには確かに神が宿っている。神の光に包まれている。何度もそう思った。(写真は「地中美術館」HPより)

奥行き24m、幅10m、長方形に切られた天窓からは、太陽が入口から昇り奥側の壁方向に沈んでいくという。天井の採光はマリア自身がデザインしたという。私が訪れたのは8月末の午前中、真夏の陽光だった。秋にはまた冬には、そして春にはどんな世界を見せてくれるんだろう。永遠に惹きつけるものがここにはある。瀬戸内の海が臨める丘にあったマリアの作品「見えて/見えず 知って/知れず」もまた違った季節に訪れてみたい。

「地中の光」が作品そのものが宿す光を際立たせ、新たな光を現すことが出来るのだろう。モネの部屋も、ジェームス・タレルの展示も素晴らしかった。フランスの美術館で見慣れたモネの作品に新たな気づきをいただいた。タレルの意匠を超えた展示には価値観の変容を問われているような、面白い発見があった。今でも眼を閉じるとあの日の感動が湧き上がってくる。3人の個性的なアーティスト、互いが刺激し合いながら共生するアートスペースを目指した安藤忠雄こそ、4人目のアーティストであり、地中美術館そのものがアートなのだとあらためて思う。またきっとこの場所に立ちたい。その日を楽しみにもう少し生きたいな。

■最近読んだ本  「汝、星のごとく」 凪良ゆう著

         「夜に星を放つ」 窪 美澄著

■最近観た映画  「百花」  川村元気 脚本・監督